ゆっくり文庫風『シャム双生児の謎』with 指環 投稿あと語り #ニコニコ動画

2021年の9月と12月に、ニコニコ動画に以下の動画を投稿した。

  本記事はクイーン原作『シャム双生児の謎』のネタバレになるため閲覧注意。
(一応、犯人が誰かだけは伏せてある)

 

 

【本編1:なぜ作った?】
5月に投稿した『エジプト十字架』を中断した状態なのだが、6月に江戸川乱歩『指環』を巡る投稿企画があり、それに後発ながら便乗した形である。

タイミングを逃すと今更感が出てくるため、急遽シナリオを作成。当時は2ヶ月程度でできると思っていたが、実際には前編・後編で各3~4か月を要した。
よく考えれば、私はゆっくり文庫系作品を結末まで作ったことがなかった。
結末をまとめる苦労を今回、身をしみて感じた次第である。

現在は『エジプト十字架の謎』完結に向けて制作中・・・といいたいが、新年早々国語系のニュースが飛び込んだため停滞中(私の中ではそちらが優先なので仕方ない)。余力があれば、2022年後半に新訳が発売される『靴に棲む老婆』を製作したいと思っているが、おそらく実現することはないだろう。

 

【本編2:シナリオ作成の経緯】
原作と話の展開が少なからず変わるため、シナリオには相当悩んだ。


まず、いかに江戸川乱歩『指環』の話を”自然に”本編に関わらせるか。

原作の『シャム双生児の謎』はクイーン親子が山火事で足止めを食らい、ジョン・ザビエル氏らが居住する館を訪問するシーンからスタートする。その後関係者の紹介があり、2件の殺人事件が起き、その過程で双子がようやく登場する。タイトルにもある双子の登場時期自体が遅く、さらに双子の存在が事件の本筋に絡むかというと微妙(ダイイングメッセージで双子が疑われるのは原作準拠)。現場のトランプも事件解決の中核というよりは犯人特定の決め手につながる”紛失した指環”の手がかりの目くらまし的な側面が強い。ただしこの構成が見事に江戸川乱歩『指環』に通じる部分があり、だからこそこの『シャム双生児の謎』を選ぶことにした。


ただ、本事件は事件の最初から”館に迫る山火事”というシチュエーションがあるため、ほのぼのと謎解きできる状況にそもそもない。そのため、館の人間に山火事の存在を伝えるクイーン親子視点ではなく、外部から秘匿された存在である双子視点で話を進めることにした。山火事を知る前なら、山火事が迫るシチュエーションでも興味深く『指環』の話に入り込めるし、終盤の地下室での時間つぶしにも応用できる(原作はカロー夫人の出産をめぐる過去話となる)。そして何より、双子視点だと『シャム双生児の謎』のタイトルが原作よりも活きる。

そして、エラリー・クイーンの作品は主人公であるエラリーが自身が関与した事件を小説化したという設定があるため、この設定を活かすなら「なぜエラリーは原作で『指環』の話に触れなかったのか」に言及する必要があると考えた。本動画内では”エラリーが江戸川乱歩エドガー・アラン・ポーを混同して関係者に伝え、事件後に作者の間違いが発覚する”という構成にし、原作での『指環』カットにに一定の説明づけを試みた。かなりギャグめいたオチになったが(笑)。


さらに、本編の動画化は『指環』とは別にいくつかの問題点があった。以下列挙。

  • 登場人物の半数に設定上の仕事がない。原作では館の主がジョンであり、マークやサラ夫人はただの居候。館の仕事は使用人のボーンズと原作未登場のホイアリー夫人にまかせっきり。また館に双子の母マリーがいるため、秘書フォレストもホームズ医師と仲良くなるだけの存在。山火事という状況にもかかわらず何もしない人物が多く緊張感が薄い。
  • クイーン親子の事件捜査が迷走気味。エラリーはカードの暗号にひっかかりサラ夫人や双子に殺人容疑をかけ、夫人は一時錯乱、双子は母マリーとともにエラリーを非難する。リチャード警視も事件中盤で逃走したマークを拳銃で負傷させてしまい、さらに治療中のマークの警備中にクロロホルムをかがされて昏睡、マークの殺害を許してしまう(原作のマークの死因は毒殺)。
  • 事件後半で殺人容疑をかけられた双子が、終盤の事件解明で殺人容疑をかけたエラリーを慕う描写がある。殺人疑惑を晴らしたのもエラリーではあるが、設定上他人との交流が少ない双子があっさりエラリーを慕うのは単純すぎて不自然。
  • 館に地下室があるにもかかわらずそれ以外の手段に依存し、ことごとく失敗する。地下室の存在は館に火が回ってからリチャード警視がサラ夫人を問い詰めて発覚するが、なぜか水や備蓄食料などの運び込みは問題なく完了する。
  • 話の中盤でジョン医師の実験室の描写があり、実験動物の生存が確認できるが、山火事の後どうなったのか不明。
  • 山火事でクイーン親子の車が炎上するが、のちの事件で同じ車が再登場する。
  • 原作の終盤で犯人は燃え盛る館の地上部に逃走(自殺という説が有力)。しかし館はほどなくして鎮火している。

 

そして本動画独自の主な設定は以下。詳細は動画でご確認を。

  • 館の主はマークでジョン医師が居候。サラ夫人は家政婦。
  • 館はジョン医師の研究施設を改築したペンションとなる。
    (原作は現役の研究施設。空き部屋はあるが宿泊施設ではない)
  • 遭難客フランク・スミス、家政婦ホイアリーは未登場。スミスの立場はテリー、ホイアリーの立場はサラ夫人が担う。
  • 『指環』の情景描写はアメリカ準拠。乗客の固有名詞、オレンジやタバコの挿絵、車窓の風景もアメリカ風に。
    (ラシュモア山の彫刻が登場するが、原作発表の1933年時点では存在しない)
  • 地下室の存在は序盤に明かされ、はじめから地下室への避難が計画される。
  • 動物実験の埋葬地が発覚するのは山火事の直前。生存中の実験動物はいない。
  • 事件が昼間に発生、ジョン医師とマークが相次いで銃撃される。
  • トランプの偽装には左利き用はさみが使用される。
  • 利き手の検証はなく、関係者への聞き込みのみ。
  • 現場検証で先に双子、あとでサラ夫人が疑われる。疑いをかける人物もエラリーではなく、エラリーは疑いを晴らす役のみ。
  • 山火事の際に双子の母マリーが館に不在。殺人容疑で双子をかばう役は秘書フォレスト。マリーは山火事の救助を手伝う立場となる。
  • マークのトランプ偽造が発覚するのはマークの死亡後。
  • リチャード警視の指環紛失の経緯も異なる。
  • 山火事で引火するクイーン親子の車は代車。
  • 地下室の入り口はがれきでふさがり、換気口からの脱出を余儀なくされる。
  • その他、終盤の展開も部分的に変更。双子の脱出後の話もあり。


今回の反省点は以下の要素が盛り込めなかったこと。こちらも列挙のみ。

  • マリー・カローが双子の出産から今までをどう思っていたか?
    (原作では、見た目の奇異さで秘密にしていたが双子のことは愛していた)
  • マリー・カローの夫との過程、ザビエル夫妻の結婚までの過程。
  • オーナーとなったマークがなぜトランプをすり替えたか?
    (原作準拠なら事件に乗じてサラ夫人に罪を着せ、遺産の分け前を増やすため)
  • そもそもエラリーはどうやって『指環』を知ったのか?
    (原作には記載なし、構想では終盤にエラリーと接触する人物から教わる)

追記:今回は『ローマ帽子の謎』『エジプト十字架の謎』のような読者への挑戦状がない。『シャム双生児の謎』原作既読者はお察しと思うが、これは原作準拠であり、忘れたわけではない(念のため)。

 

最後に、素材の規約の件。

実は後編作成中にゆっくり素材の規約が変更(正確には規約の明確化)。ゆっくり文庫様から借用した一部素材が使用不可となった。こちらとしては使わせていただく意識を忘れずに使っていきたい。素材の規約についてはなるべく確認するようにしているものの、もし規約違反などあればコメントやTwitterなどでご指摘を。


【追記:ニコニコ動画上での反応など】

ブログ公開時点で忘れていたこと。

2021年8月30日に前編の試作版はニコニコ生放送で放映した。

(無料でニコ生が制限なく使用できる時期だったため)

何気に初のニコ生だったが、文庫関係者を中心にいくつもの反応を頂けた。

そして後編作成後、同じく文庫系動画を投稿するルイス足永様からの感想も。

ルイス足永様のように定期的に反応いただけるのはうれしい。

(同時に、これ以上動画投稿に力点を割けないのがもどかしい)

 

 

【おまけ:キャスティングについて】※マニアックな言及に注意!

今回は『ローマ帽子の謎』から一部キャラを再起用した。

今回のキャスティングの方針は以下:

  • シャム双生児はてゐとうどんげで確定(シルエットがカニに見えるため)
  • ホームズ医師はゆっくり文庫リスペクトでれいむ確定
  • 事件の舞台は高山の館→高山にある守矢神社の関係者

以上の条件の元であれこれ悩み、現在のキャスティングへ。
東方原作的には秘書フォレスト(早苗)と使用人ボーンズ(もこう)の立ち位置が浮いているが、クイーンの原作イメージとの整合性を取るとこうするしかなかった。フォレストの髪飾りを改変したのはただのお遊び。

具体的にはこんな感じ。()は東方作品での登場作品。
・双子の母マリー:えーりん永夜抄
・秘書フォレスト:さなえ(風神録
・双子フランシス:てゐ(永夜抄
・双子ジュリアン:うどんげ永夜抄

・外科医ジョン:かなこ(風神録
・ジョンの妻サラ:すわこ(風神録
・ジョンの弟マーク:きめぇ丸(風神録?)
・ジョンの助手ホームズ:れいむ
・使用人ボーンズ:もこう(永夜抄


ちなみに『指環』ではゆっくり文庫はじめ多くの投稿者に準拠して
・アラン(乗客A):れいむ
・ボブ(乗客B):まりさ
とした。他作との差別化のためころポン式のゆっくりを借用。
指環を盗まれた貴婦人役はころぽん式ようむも検討したが、”本編でれいむ、まりさが別役で登場し、ようむは登場しない”関係上、ころポン式に雰囲気が近い守口式さなえを使用した。車掌は罪袋一択だった。

 

そして本作では原作にいない人物が多数登場する。以下列挙。
()内はクイーン原作での登場作品。
・探偵テリー・リング(ニッポン樫鳥)
・雑誌記者ポーラ・パリス(ハートの4)
・看護師ジェシィ・シャーウッド (クイーン警視自身の事件)
・女流作家カレン・リース (ニッポン樫鳥)


テリー・リングは原作で迷走するエラリーの推理を代わりに請け負う役割。原作の『ニッポン樫鳥の謎』では殺人容疑をかけられた女性を匿い、エラリーに相談する人情味のある人物だが、本動画でそんな彼の人となりをどこまで再現できたかは不安。ちなみに原作『シャム双生児の謎』で盗み食いを働くフランク・スミス(クイーン親子と別の避難客)に立ち位置を近づけており、偽名はその時の名残。ちなみにエラリー・クイーン作品では他の作品でもエラリーと別の探偵がしばしば登場するが、テリーを起用した理由は名字の”リング”が最大の決め手。配役をまりさにした理由はなんとなく。

 

ポーラ・パリスは本編に絡まないが、原作と違い館にいないマリー・カローを館に向かわせる、双子に『指環』の本当の作者を伝える役を担う。本動画制作のために山火事について調べた中で火災積雲という現象(1975年以降に学会で認知)を知り、それを知らせることで結末に深みが出ると考えたため盛り込んだ。

原作の『ハートの4』でもハリウッドに不慣れなエラリーを独自の情報網と分析力で支援する人物であるため、原作の『ハートの4』をご存じの方もそこまで違和感がないのではと思っている。ちなみに『ハートの4』で対人恐怖症(事件後に克服)という設定があるため、同じ設定を持つはたてを起用。


ジェシィ・シャーウッドも本編に絡まず、館を支援するマリー・カローに山火事の状況を伝える役割(原作はモブキャラから手紙などで火事の状況が知らされる)。原作のジェシィは晩年の作『クイーン警視自身の事件』でリチャード警視と事件を解決し、のちにリチャードと結婚する人物。越前訳『シャム双子の秘密』でもジェシィについて解説がされているのでご参照いただきたい。個人的にはもっと本編に絡ませたかったが私の力量では無理だった。ちなみにリチャード役のえいきと対等な関係にしたかったため、えいきが登場する東方花映塚の強キャラゆうかを起用。


カレン・リースはのちに小説化する前にエラリーに『指環』の作者を伝える役割。原作『ニッポン樫鳥の謎』でもエラリーと面識のある日本通の女流作家という設定を持つ。当初の構想ではエラリーが『指環』の存在はカレンから教えられ、江戸川乱歩の語感からエドガー・アラン・ポーの作品と勘違いするという設定だったのだが、本編に絡ませると話が冗長になるため結局カット。ちなみに同作でテリーと共演するが、カレンは『ニッポン樫鳥』の序盤で死亡するため、テリーとやり取りする場面はない。日本人女性らしいイメージを重視してかぐや姫モチーフのかぐやを起用。

後編作成中に素材を変更したのはここだけの秘密(作成当初は文庫式だった)。