うっかり文庫版『ローマ帽子の謎』#ニコニコ動画

年末年始、外出などができないことから2年ぶりに動画投稿に手を出した。

それがうっかり文庫版『ローマ帽子の謎』。

※原作の問題編のみを15分程度にまとめたもの。こういう、著作物の一部内容を動画化したものはニコニコ動画にて「うっかり文庫」の呼称で投稿されており、本作はそれに倣ったものである。

 

 

本稿では、動画投稿の経緯について、これまでのブログ発信から逸脱しない範囲で現時点での考えをまとめておく。

本来なら、他の動画投稿者様のような原作や素材(主に東方project)に関する考えを出すべきだろうが、これまでのブログ読者にとっては唐突すぎるだろう。その手の内容は本編では触れず、終盤の【おまけ:制作メイキング】に記した。気になる方はそちらを参照されたい。

 

【本編1:動画投稿の背景】

ブログで国語の問題に言及してから、実は私はエラリー・クイーンの小説を何冊か読み始めていた。年末年始も同様であったが、年末年始で外出などができないからか、家にこもるうちに読み込んだ内容を吐き出したい衝動にかられたのが直接のきっかけである。長期的にはやるべきことがいくつもあるため、抑圧するよりも、時間があるうちに制作したほうがよいと考えたのだ。

そして、時々視聴していたニコニコ動画を参考に素材を集め、シナリオを書き、完成させたのがうっかり文庫版『ローマ帽子の謎』である。3日程度の粗削りであるが、そこそこのものが完成した(良作になったか否かはなんとも、である)。

過去の動画作品と傾向が異なるのは、同様の作品の傾向(とくにゆっくり文庫系)のスタイルに合わせることで、他のうっかり文庫作品との違和感を減らしたかったことが大きい。旧動画のオマージュも考えたが、結局見送ることに。

 

【本編2:なぜエラリー・クイーンか】

直接には、エラリー・クイーンを取り上げた作品がニコニコ動画や他の動画サイトをみてもほとんどなかったことが大きい。著作権的には微妙なところであるが、この件で報酬を得る予定はないため、ある程度は許容されるであろうと判断したのだ。

 

もっとも、エラリー・クイーンに手を出した経緯は、これまでのブログ発信とも無関係ではない。国語教育の問題、とりわけ「論理と文学の二分」の問題を考える中で、橋渡しの可能性を推理小説に求めた点が大きい。

 

探偵エラリー・クイーンは、数ある推理小説の人物の中でも「推論」を重んじる、というのが私の理解である。裏を返せば、事実や証拠、人間の心理といった側面を推理の際にやや軽視する傾向がみられる。本動画の原作『ローマ帽子の謎』でも、犯人を特定するためには”被害者の帽子の紛失”という事実にフォーカスした推論が必須となる。被害者を毒殺するだけならば、動機面でもアリバイ面でも犯行が成立しそうな人物は何人もいるのだから。

併せて、犯人特定には一見すると犯行不可能に見える状況・証言にダウトをつきつける必要がある。あまり深入りするとネタバレになるが、

・死体発見直後に帽子を持ちだせたか?

→死体発見直後に警察関係者の1人がその場に居合わせており、かつ帽子紛失の事実に違和感を唱えていない。つまり、死体発見段階で帽子はすでに消えていたため、死体発見直後に帽子を持ちだした可能性は消滅する(刑事が犯人なら別だが)。

・被害者と接触した男に帽子の持ち出しは不可能か。

→実は可能。受付嬢の証言で「S席(ドレスコート必須)の客で帽子を2つ以上持ち出した人物はいない」とあるが、帽子をコンパクトにまとめることが不可能であることが暗黙の前提となっている。実は、そのような帽子の存在が、作中で”さりげなく”言及されており、それに気づけば容疑者を大幅に絞り込むことができる。

・ジュース瓶に事前に毒を仕込めたか?

→ジュースの在庫切れは想定外。作品内で被害者のジュースの好みや在庫の保管状況については言及されていないため、それを想定した推理自体に無理がある。これについてはさりげなく言及された箇所もない。それどころか、ジュース売りが直接被害者に商品を届けたために、ジュース自体がすり替えられた可能性を消滅させる結果となっている。

探偵クイーンはこうした推理傾向を持つため、文学作品で論理について考える、という題材としてはかなり面白いのではと感じた。ただ、国語の授業教材としては『ローマ帽子の謎』は長すぎる。クイーンの短編は未読であるが、短編に挑戦したほうがよいのかもしれない(もっとも、殺人事件を扱う小説が国語の授業にふさわしいかという問題もあるが)。

 

【本編3:ブログ主は文学に無関心か?】

私はこのブログで度々”文学についてドライ”ということを公言してきた。

過去の私のブログを読まれた方は、もしかしたら”ozean-schlossは文学系の書物をほとんど読まない”と思われているかもしれない。

概ね正しいし、私の読書における文学の割合はせいぜい3%である。

ただ、”3%程度”であって、ゼロではない。

(2020年はクイーンの作品だけで10冊近く読んでいるためもう少し多くなるだろう)

そして、”文学についてドライ”という私のスタンスは、

・読書における文学作品の比重の低さ(文学以外で読みたい本が圧倒的に多い)

以外に、

・文学作品の登場人物・状況設定に感情移入しない

という面がある。

この点については賛否がわかれるところであろうが、私が文学作品を読む際に念頭に入れているのは、主として作者・作品の世界観や文体をつかむことにある。登場人物の考え方や行動を参考にすることのゼロではないが、経験上、特定の著者に感情移入しすぎると、それに合わない考えの著作を読むのが苦しくなる。そうした読書観があってもよいが、少なくとも多種多様な本(文学以外を含む)に接したいと考える私の読書観とは相いれないと考える。

 

【本編4:今後について】

今回の動画投稿の際、ブログやTwitterなどを分割すべきかどうかかなり迷った。実のところ、今回の動画では独自の考察動画やファンアートをいただく結果となった(これ自体は大変うれしい)が、こうした反響をくださる方々と私の読書観・作品観が彼らと相いれるのかどうか、特に彼らの定期的な投稿意欲に水を差さないか不安で仕方ないのだ。

www.nicovideo.jp

 

とはいえ、今回のような動画投稿を今後も行うかどうかはわからないし、そもそも私は休眠中であるがもともと動画投稿者だったのだ。今後、不都合が出てきたら動画投稿者としての私と、国語を含めた学問知に関する発信をする私を分割するかもしれない。

なお、うっかり文庫版『ローマ帽子の謎』は、投稿段階で”解答編は制作しない”と明言してある。思わぬ反響があったため、解答編の制作についても考えたが、今回の反響は今回のようなスタンスがあったからこそだと思っている(つまり、今後解答編を作成すること自体が本動画の価値を損ねる可能性がある)。なので、『ローマ帽子の謎』の結末が知りたい方は原作を読んでいただくか、他の動画投稿者が解決編を投稿するのを待っていただきたい。

もし、私自身が再び動画投稿をするなら、別の内容の動画になるだろう。

エラリー・クイーンか、他の作品になるかはわからないが。

なお、本ブログでは今後も、動画投稿とは無関係に不定期な発信を続ける予定である。特に、文学愛・創作愛を期待される方はご注意いただきたい。

 

 

 

 

【おまけ:制作メイキング】※マニアックな言及に注意!

ここからは、動画制作の背景(素材選定など)の話をする。

 

まず、キャスティングについて。

他者様の動画作成方針に従い、今回はきつね式ゆっくり(元ネタ:東方project)を使用。キャスティングについては

・主要人物については他のミステリー作品と重複させない

が絶対条件だった。最終的に主役はてんこ(比那名居天子)を起用。その理由は主人公エラリー・クイーンの性格設定との乖離が小さいのもあるが、最大の決め手は動画後半に出てくるBGM「天衣無縫」の使用を考えたことにある。エラリー・クイーンはメディア化の少ない作品なのでBGM素材が少ないのだ。

そしてこのBGMを使用するなら、主人公役はてんこ一択になる。

www.youtube.com

 

ただ、主要人物のキャスティングは少々悩まされた。てんこは”天人”(ただし不良気味)という設定があるため、彼女と対等以上の関係になる人物でなければ父親かつNY警視のリチャード・クイーン役に当てはまらないのだ。最終的には地獄の閻魔えいき(四季映姫・ヤマザナドゥ)を起用し、クイーン警視の部下トマス・ヴェリー役にえいきの部下こまち(小野塚小町)を起用する。本作のヴェリーの台詞回しが原作とかなり違うが、練り直す手間を惜しんでそのまま投稿した。

なお、てんこの従者ポジションにはいく(永江衣玖)がいるが、彼女は原作未登場の秘書ニッキー・ポーター役として序盤と終盤に登場してもらうことに。観測範囲では、原作ファンの中にはニッキーの存在を快く思わない人もいる(何より、正規のエラリー・クイーン作品でニッキーの出番は2回しかない)ため、続編が出た時の彼女の扱いについては要検討である。

 

その後のキャスティングは制作過程で何となく決定。

原作では登場人物が30人程度いるが、最終的に15人(ニッキー除く)まで減らす。

原作で登場し、動画で未登場の人物は以下。

・ジューナ:クイーン家の使用人。準レギュラー。

・サミュエル・プラウティ:検死担当の医師。準レギュラー。

・サディウス・ジョーンズ:毒物学者。テトラエチル鉛の分析を行う。

・ヘンリー・サンプソン:地方検事。法的な立場で警察を支援。準レギュラー。

・スタッカード医師:観客の中にいた医師。警察到着までの検死を担当。

・ハリー・二―ルソン:劇場の宣伝マン。警察への連絡やチケットの確認を担当。

・ゴードン・デイヴィス:劇場のプロデューサー。空気。リストに名前なし。

・フィリップス夫人:劇場の衣装担当。エラリーを楽屋に案内する。

・エリナー・リビー:劇場のアイスクリーム売り。ジェスのアリバイを補完。リストに名前なし。

・フランクリン・アイヴス・ポープ:大富豪。令嬢の父親。

・ルシール・ホートン:劇団女優。空気。

ヒルダ・オレンジ:劇団女優。令嬢と友人関係。でも空気。

・アンジェラ・ラッソー:被害者の愛人。被害者の足取りを証言。

・オスカー・ルーイン:被害者の事務所の事務長。

・ドイル:事件発生時にその場に居合わせた警官。

・その他、警察関係者多数。

 

事件関係者を絞ったところで残りの関係者をキャスティングする。

もちろん、犯人は以下の人物の中にいる(そして原作通り)。

・被害者モンティ・フィールドは帽子の存在が必須。まりさ(霧雨魔理沙)一択。

・ローマ劇場=紅魔館に伴い、支配人ルイス・パンザーはれみりあ(レミリア・スカーレット)で確定。原作では要所要所で呼び出しを受ける忙しい人物。本作では劇場に詳しい設定を活かし、原作未登場の衣装役を兼ねる。なお、後半のエラリーとの会話は原作にはなく、犯人確定後にクイーン警視が部下に聞かせた内容である(原作では革新まで触れている)。原作では劇場復帰後に劇場内を再調査しているため、それを防ぐためのIF設定である。証言・アリバイなどを大幅にカットしたため、代わりに本編で「犯人ではない」とエラリーに明言させた。

・劇場関係者はなるべくれみりあの側近と考えたが、最終的にそのままなのは受付嬢マッジ役のさくや(十六夜咲夜)くらい。重要証言者のジュース売りは当初チルノだったが、キャラが合わなさ過ぎたためりぐる(リグル・ナイトバグ)に変更。宣伝役ニールソン役にめーりん(紅美鈴)を予定したが最終的に存在ごとカット。ぱちゅりー(パチュリー・ノーレッジ)は知識キャラなので当初から弁護士モーガン役に。ふらん(フランドール・スカーレット)に至っては原作のあぶなっかしい設定から被害者の用心棒チャールズ・マイクル役となる。

・劇団関係者および令嬢フランシス・アイヴス・ポープは配置に悩んだ。最終的に令嬢役をゆゆこ(西行寺幽々子)、恋人の俳優スティーブン・バリー役をようむ(魂魄妖夢)として残りの役を配置する。彼女らは終盤で重要なポジションになるが、原作の結末を考えた時にこの配置が良いのかどうかは悩みどころ。他の動画を見る限り、ゆゆことようむが恋人関係という動画は少ない印象。

・原作ではバリー以外の俳優が軒並み空気。貫禄を出すため、主演男優役はきめえ丸(射命丸文?)、主演女優はさなえ(東風谷早苗)とした。バリーも含め、作中の舞台での証言は原作では警察の捜査によるもの。”劇団の先輩”の存在は本作の独自設定。

・最後まで悩んだのがれいむ(博麗霊夢)のポジション。消去法で小悪党ジョニー・カザネッリ役となる。原作では”牧師”の異名を持つ人物で、クイーン警視に叱り飛ばされてからはかなり下手に出ているが、れいむが担当になったことで妙な貫禄が出てしまった。

 

その他、シナリオも大幅に短縮したが以下略。不明な点があればTwitterのDMでお尋ねを。